■近代の絵画と彫刻-個性的表現の開拓-
「風景」というと、一般的には自然の景色や眺めを意味します。私たちを取りまく木々や山川などの景観は、自然を受けとめる側である人間に、心和ませる美や喜びの対象であったり、また場合によっては、自然の猛威から恐れの念をいだかせるものに変貌します。すなわち「風景」は、見る人によってそれぞれ異なった印象を受けるものであり、それはまた、見る側の意識や経験の問題と深く関わっていることがわかります。特に美術家たちは、みずからの感性を通して自然を解釈し、その時々の気分や意識を反映させた作品を制作することによって、改めてわたしたちの気付かなかった風景を再発見させてくれます。
明治の近代化は、西洋の科学や文化を受容することによって、本来の日本文化と絡み合って推進されてきました。時代や地域や場所が違うと、風景に対する考え方も異なることは言うまでもありません。日本の美術家たちは、それをいち早く認識し彼らの作品に反映させたと言えるでしょう。例えば、美術家たちにとっての遠近法や写真術などとの出会いが、彼等の視覚の変容を促す大きな要因となりました。そして今日の美術における風景表現の様相は、多元的な価値観を反映して、もはや風景画という概念では捉えきれないものにまで及んでいます。中でも、写真術の利用は風景画の常識を変えてしまうような視点を生みだして、風景表現の可能性を広げました。科学の進歩と美術家の表現の拡大という点からも、今日の多様な風景表現は、わたしたちに様々な視点を提示してくれます。また、現代では、画家の眼で自由に対象をとらえて表現し、自然を独自の視点で描いたものから、画家の心象風景を現したもの、また、美術家にとって特別な意味を持った場所など、様々な表現が見られます。
本展は第1部として、近・現代の日本及び西洋の画家たちによって描かれた“西洋風景”を展示し、第2部では、近代から現代までの日本人画家による“日本風景”の表現を展観いたします。
常設展示室 1F 2000 MOMASコレクション 第4期
2000.12.12 [火] - 2001.4.8 [日]
風景の楽しみ
会期
2000.12.12 [火] - 2001.4.8 [日]
観覧料
無料
埼玉県立近代美術館では、2008年度より「常設展」という呼称を「MOMASコレクション」に改めました。当館の常設展では2002年度以降、外部からの借用作品や現存作家のご協力によって、所蔵作品を核としつつも従来の常設展のイメージに捉われない、企画性の高いプログラムを実施してきました。名称変更はこうした意欲的な姿勢を示そうとするものであり、これまで以上に充実した展示の実現を目指しています。
※MOMAS(モマス)は埼玉県立近代美術館(The Museum of Modern Art, Saitama)の略称です。